2025年7月25日、欧州委員会はREACH規則の行政手数料改定案に関する最終投票を開始し、投票締め切りは8月30日となっている。可決された場合、同法案は「EU官報」掲載から20日後に発効する。
改定の背景
草案によれば、2018年のREACH登録期限以降、ECHA(欧州化学品庁)の登録収入が「急減かつ予測困難」となっている一方、科学的評価および技術支援の業務負担は年々増加していると指摘されていた。また、欧州会計監査院、欧州議会および理事会は、現行の中小企業(SME)認定審査メカニズムについて「業務量が膨大で時間を要し、不公正競争を生じさせる可能性がある」として、その効率性と正確性に懸念を示している。
改定案の主な内容
1.登録手数料の全面値上げ
欧州委員会の審査結論によれば、標準手数料項目は、EU統計局(Eurostat)が公表した2021年、2022年、2023年の平均年間インフレ率を参照し、累計19.5%のインフレ調整を実施する予定です。ただし、中小企業の競争力維持のため、欧州委員会「2024-2029年政治綱領」及び「中小企業支援案」の政策目標に沿い、このインフレ調整メカニズムは中小企業が当局に支払う手数料には適用されません。
主な手数料改定は下表の通りです。
表1 改定後の登録手数料(19.5%値上げ)
区分 | 単独提出 | 共同提出 |
1〜10トンの範囲にある物質 | 2,078ユーロ | 1,558ユーロ |
10〜100トンの範囲にある物質 | 5,585ユーロ | 4,190ユーロ |
100〜1,000トンの範囲にある物質 | 14,939ユーロ | 11,204ユーロ |
1,000トンを超える物質 | 40,270ユーロ | 30,202ユーロ |
表2 中小企業向け手数料減免(現行維持)
区分 | 中規模企業(単独提出) | 中規模企業(共同提出) | 小規模企業(単独提出) | 小規模企業(共同提出) | マイクロ企業(単独提出) | マイクロ企業(共同提出) |
1〜10トンの範囲にある物質 | 1,131ユーロ | 848ユーロ | 609ユーロ | 457ユーロ | 87ユーロ | 65ユーロ |
10〜100トンの範囲にある物質 | 3,038ユーロ | 2,279ユーロ | 1,636ユーロ | 1,227ユーロ | 234ユーロ | 175ユーロ |
100〜1,000トンの範囲にある物質 | 8,126ユーロ | 6,094ユーロ | 4,375ユーロ | 3,282ユーロ | 625ユーロ | 469ユーロ |
1,000トンを超える物質 | 21,904ユーロ | 16,428ユーロ | 11,795ユーロ | 8,846ユーロ | 1,685ユーロ | 1,264ユーロ |
2.SME(中小企業)事前認定制度の導入
2018年の前回登録期限以降、申告件数が減少している状況を踏まえ、また中小企業資格審査の効率化と公正な競争環境確保のため、企業は関連申告書類を提出する前に中小企業資格の事前認定を申請し、証明書類を提出することが求められます。
これに伴い、ECHAは事前に中小企業資格認定手続きを実施し、申請受理後、必要書類が全て揃ってから最長2か月以内に審査を完了させる義務を負います。関連企業は、手数料減免を主張する申告書類提出の最低2ヶ月前までに、中小企業の資格認定を申請する必要があります。これにより、ECHAは実際の手数料減免申告の前に、当該企業の中小企業資格を認定する十分な時間を確保できます。
- 事前申請制度:企業は登録書類提出の最低2ヶ月前にECHAへSME認定を申請;
- 3年有効期間:認定取得後、SME資格は3年間有効(EU関連法規下の全ての申請に適用);
- 審査手数料:ECHAはSME認定申請に対し行政手数料を徴収できる(但し、最終的にSMEと認定された場合は免除);
- 移行期間:新制度は規則発効から15か月後に正式施行され、企業には十分な準備期間が与えられている
CIRSの見解
弊社は、既に今年2月初旬にECHAが公表した年次報告に基づき、EU REACH登録の行政手数料が19.5%引き上げられると予測していました。今回の動きは最終投票段階に正式に入ったに過ぎません。
EUのBPR規則の手数料が最近19.5%値上げされたことを踏まえると、今回の投票は高い確率で可決される見込みです。可決後は、おおむね2ヶ月程度の移行期間(具体的な期間はEUの公式発表による)が設けられる可能性が高く、最新のBPR手数料規則の事例を参考にすると、新規則の正式な発効時期は早くても11月頃と予想されます。
EU REACHの登録プロセスには通常約3ヶ月を要し、その中でもデータ保有者との交渉に多くの時間が費やされます。最近、CIRSグループにはLR(リードレジストラ)からの連絡が複数寄せられていますが、担当者が集中的に休暇を取っているため、データ使用許諾書(LOA)の取得プロセスに遅れが生じる可能性があります。これにより、企業の登録期間がさらに長引くリスクがあります。
そのため、新規則発効後の行政手数料増額を回避するには、改正案発効前に登録を提出する必要があります。弊社の専門家は、企業が速やかに登録関連の手続きを開始することを強く推奨します。ご質問やサポートが必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。
詳細情報: https://ec.europa.eu/transparency/comitology-register/screen/documents/106530/2/consult?lang=en
