現在、米国では45,000種以上の化学物質が使用されており、化学物質のばく露により毎年5万人~12万人の労働者が死亡し、周辺地域にも汚染を及ぼしています。SDS についての分析が650件を超えるのは、初めてです。
2022年12月、米国の労働・環境運動同盟である「青と緑の同盟」(Blue-Green Alliance)により分析レーポトは以下のように述べています:
- SDS(安全データシート)の記載漏れのうち、かなりの割合のが発がん性物質に関わります。512件のSDSに30種類の発がん性物質が含まれ、そのうち、15%のは危険有害性の項目で発がん性が報告されていない。
- 生殖毒性化学物質を含む372件のSDSのうち、21%のはこの危険性に関する警告が欠如している。
- 特定標的臓器毒性(STOT)を有する化学物質を含む278件のSDSのうち13%のは、この危険性に対する警告が省略されているか、または不正確な警告が表示される。
例えば、ヒトに対する発がん性が知られている塩化ビニルのSDSには、皮膚、目、呼吸器に対する刺激性の警告はあるが、がんについての言及はありません。また、変異原性、発がん性、特定標的臓器毒性(STOT)について警告すべきベンゼンのSDSでは、飲み込んだり、皮膚に触れたり、吸い込んだりした場合の皮膚や目の刺激と危険性だけが報告されています。
バイデン政権は、トランプEPAのTSCAリスク評価を改訂しています。しかし、化学製品を購入する雇用者とそれを使用する労働者に正確に警告するためには、さらなる作業が必要であります。
米国でのSDS作成は注目すべき
この研究の発表後、要求に合致する米国のSDSの作成が化学関連産業の注目点となるかもしれません。SDS作成についての重要なポイントは以下の通り:
- 正確な注意喚起語、ピクトグラム、製品が持つすべての危険有害性の説明と、それに対応する予防的な説明が示されていること。区分の過程で判明した未区分の危険有害性については、未知の急性毒性成分の濃度を明記しておく必要がある。
- 危険有害性の分類に寄与する不純物や添加物は、SDS に記載する必要がある。混合物の場合、健康危害性をもたらすすべての成分をSDSに表し、濃度が濃度限界値(cut-off/concentration limits)を超えるか下回るかを直接に記述する必要がある。
- OSHAによって許可されている、または製造者や輸入者によって提供されている、適用可能な職業ばく露限界値が必要である。
- 製品の物理的および化学的特性、応急処置、火災予防、安全貯蔵、廃棄などに関する情報。
- 毒性データ、暴露経路、症状、輸送情報など。
米国のHCS基準(Hazard Communication Standard)は、GHS第3版と同じ内容で2012年3月26日に発行され、同年5月25日に発効されました。注意すべきなのは、EUのSDSが濃度制限値を判断基準の一つとしているのとは異なり、米国のSDSは健康危害性を含む全成分を第3部分に表示しなければならないことであります。製品の分類に関しても、米国ではOSHAが定めた3つの危険有害性区分:自然発火性ガス(Pyrophoric Gas)、 単純窒息剤(Simple Asphyxiant)、 可燃性粉塵( Combustible Dust)があり、それに対応する注意喚起語、ピクトグラム、危険性説明、予防的説明があります。また、米国にはその基準に適合した職業暴露限界値があり、この限界値は他の国や地域のものと異なります。従って、他のSDSの暴露限界値を直接に転記することは避けてください。HMIS ratingsやNFPA ratingsに関する情報も、作業者の安全のために必要に応じて米国のSDSに追加することができます。
上記の情報は、作業者が化学物質の危険性情報を識別し、危険を予防し、危険下の緊急事態に対応するための指針であります。正確で完全なSDS作成は、環境の保護と人間の健康を守るために重要な役割を果たします。したがって、各化学製造業者、輸入業者およびその他の企業も、自社製品のSDSを重視し、期限内に作成し、更新しなければなりません。