「中華人民共和国危険化学品安全法」(以下「安全法」)が、2025年12月27日に開催された中華人民共和国第14期全国人民代表大会常務委員会第19回会議にて可決・公布されました。本法は2026年5月1日より施行されます。
数年にわたり複数回の改正草案を経て、今回正式版として公布されました。本稿では、正式公布版において特に注目すべきポイント、主な変更点および企業としての対応の方向性について整理します。
注目ポイント
1.目録管理制度
「安全法」では、草案の主要な内容が維持されました。危険化学品の範囲は、応急管理部が他10部門と共同で、化学品の危険有害性の鑑定および分類基準に基づき確定・公布し、適時調整を行うことが規定されています。また、応急管理部門が危険化学品の安全生産監督管理および総合的な監督管理を担うことが規定されています。
一方、改正草案に記載されていた「危険化学品の確定原則」に関する文言は削除され、危険化学品そのものの物理的・化学的な危険有害性が目録の調整に与える影響がより明確化されました。危険性が未確定の化学品については、早期に試験・鑑定を実施することが求められます。
2.危険化学品従事者の管理強化
危険化学品を取り扱う事業者・企業等の従事者に対し、教育およびトレーニングの受講、ならびに合格後の従事が義務付けられました。資格が必要なポストについては、法に基づき相応の資格を有する人員を配置しなければなりません。また、危険化学品製造企業の従事者は、国が定める学歴要件を満たし、安全生産に関する教育・研修を受け、試験合格後に業務に従事することが求められます。加えて、危険化学品製造企業は、安全教育・研修管理制度を整備し、定期的な研修を実施することで、従事者の安全意識および安全生産技能の向上を図ることが規定されています。
3. 安全評価報告書の公開制度
従来の「危険化学品安全管理条例」(第591号令)と比較して、新しい「安全法」では、安全評価報告書の社会への公開義務が新たに追加されました。
第39条では、危険化学品を製造・貯蔵する企業は、国家が定める資格要件を満たす機構に委託し、自社の安全生産条件について3年ごとに1回、安全評価を実施し、安全評価報告書を作成することが規定されています。報告書の内容には、安全生産条件における問題点の是正案および是正完了後の結論的な意見を含める必要があります。また、この安全評価報告書は規定に従い、社会に公開しなければなりません。
4.SDSおよびラベルの管理要件
危険化学品の製造企業および輸入企業は、その製品と一致する中国語の化学品安全データシート(SDS)を提供し、容器や包装(外装を含む)に包装内の製品と一致する中国語の化学品安全ラベルを貼付、印刷、または吊り下げなければなりません。SDSおよびラベルは、国家標準(GB)の要件を満たす必要があります。
製造・輸入企業は、自社が取り扱う危険化学品に新たな危険有害性を発見した場合、直ちに公告し、SDSおよび安全ラベルを適時に改訂しなければなりません。
※今回の安全法では具体的な改訂期限は明記されていませんが、国際的な慣例(6ヶ月〜1年以内)に基づき、速やかに更新することが望まれます。
製造・販売企業は、危険化学品を販売する際、法律、行政法規、および国家標準・業界標準の要件を満たすSDSを、購入者(法人または個人)に提供しなければなりません。SDSまたは安全ラベルがない製品の販売は禁止されており、SDSやラベルの内容を無断で改ざんすることも禁じられています。
さらに、いかなる組織および個人も、危険化学品を購入する際、製造企業または販売企業に対して当該危険化学品のSDSを請求し、その危険有害性、防護措置、および使用方法について確認する権利を有します。
5. 危険化学品登録の免除規定
危険化学品の製造企業および輸入企業は、登録機関において登記手続きを行う義務があります。しかし、第87条において、新たに一部の登録免除に関する規定が追加されました。
免除対象: 研究開発(R&D)や試作・試販の過程にある、低量・低放出・低曝露の危険化学品などは、登記が免除されます。
免除の具体的な運用方法については、国務院の応急管理部が工業情報化、公安、生態環境、農業農村、衛生健康、税関などの各部門と共同で策定する予定です。
6. 危険化学品の輸送管理
第64条および第65条では、危険化学品と「危険物」の関係性が明確に整理されました。道路・水路で危険物として管理される危険化学品を輸送する場合、本法および交通運輸管理部門の安全規定を遵守しなければなりません。第65条ではさらに、適切に処理された後、普通貨物として管理可能と判断される危険化学品については、普通貨物としての輸送が認められます。具体的な判定基準や運用方法は交通運輸主管部門が策定することとされています。
上記2条項により、危険化学品と危険物との関係が整理され、すべての危険化学品が危険物として輸送管理の対象となるわけではないことが明確になりました。
7. 危険化学品の情報化監督管理
第11条では、県レベル以上の人民政府において、危険化学品の安全監督管理責任を有する部門は、危険化学品の情報化監督管理を強化することが規定されています。
8. 化学工業団地(化工園区)の管理
新たな「安全法」では、化学工業団地(化工園区)も監督管理の対象に正式に組み込まれ、多くの管理要件が追加されました:
第17条では、化学工業団地は、省・自治区・直轄市の人民政府またはその授権を受けた部門によって認定・公布され、かつ定期的に再審査が行われることが規定されています。
また、省・自治区・直轄市の人民政府は団地の合理的な整備を行い、安全リスクレベルの評価および論証を組織的に実施し、管理・抑制措置を整備・実施する責任を負うとされています。
団地に出入りするすべての危険化学品に対して動的監視を行い、主要施設や重大危険源、インフラのリスクモニタリング・早期警戒を実施することが義務付けられます。
第18条では、新設または拡張される危険化学品製造関連の建設プロジェクトは、原則として化学工業団地内に立地しなければならないと規定されています。ただし、他産業の生産設備と一体的に建設されるプロジェクトや、国家規定に適合するその他のプロジェクトについては例外とされています。
なお、化学企業に付帯サービスを提供する企業を除き、非化学企業が化学工業団地に進出することは禁止されています。
第19条では、化学工業団地は、少なくとも3年に1回、全体的な安全リスク評価を実施し、安全リスクの除去・低減・管理に関する対策を提示し、これを有効に実施することが求められています。
9.管理部門の職責の明確化
第121条では、監視対象化学品、および危険化学品に該当する医薬品・農薬の安全管理は、安全法の規定に従って実施することが明確化されています。ただし、他の法律・行政法規に別段の定めがある場合は、そちらが優先されます。
第125条では、港湾区域内の危険化学品製造・使用装置、およびそれに接続される貯槽部分は、応急管理部門が安全監督管理を担当することが定められています。一方で、危険化学品埠頭のみに接続されている貯蔵タンク部分については、港湾行政管理部門が安全監督管理を担当することとされています。
10. 通報の奨励と報奨金制度の導入 ☆
安全管理の透明性を高めるため、「通報制度(内部告発・レポート)」に関する規定が強化されました:
第10条: あらゆる単位(団体)および個人は、本法に違反する行為や事故の潜在的リスクについて、監督管理部門に通報する権利を有します。
報奨と保護: 違法行為の通報や重大な事故リスクの報告を行った功労者に対し、県レベル以上の人民政府は法に基づき報奨(報奨金等)を与えます。また、通報者の情報は厳重に秘匿されます。
11.法的責任
次のいずれかに該当する場合、危険化学品安全監督管理の職責を負う部門は、職責分担に従い、期限付きの是正を命じ、10万人民元以下の罰金を科すことができます。期限内に是正されない場合は、10万人民元以上20万人民元以下の罰金を科し、直接責任を負う主管人員およびその他の直接責任者に対して、2万人民元以上5万人民元以下の罰金を科します。情状が重大な場合は、生産・営業停止および是正整備を命じます。
(一)危険化学品の製造企業または輸入企業が、中国語のSDSを提供していない場合、または危険化学品の包装に中国語の化学品安全ラベルを貼付・印刷・吊り下げていない場合。
(二)危険化学品の製造企業または輸入企業が提供する中国語SDSが、製造または輸入した危険化学品と一致していない場合、包装に貼付・印刷・吊り下げられた中国語の化学品安全ラベルが内容物と一致していない場合、またはSDSおよび化学品安全ラベルが国家標準の要求に適合していない場合。
(三)危険化学品の製造企業または輸入企業が、製造または輸入した危険化学品に新たな危険特性が判明したにもかかわらず、直ちに公告を行わない場合、またはSDSおよび化学品安全ラベルを適時改訂しない場合。
(六)危険化学品製造企業の従事者が、国が定める学歴要件を満たしていない場合、安全生産に関する教育・研修を受けていない場合、または試験に合格しないまま業務に従事している場合。
(七)危険化学品の包装資材および容器の材質、包装形態、規格、方法ならびに重量が、当該危険化学品の性質および用途に適合していない場合。
(十)危険化学品を製造、保管または使用する事業者が、作業場所および安全施設・設備に明確な安全警告標識を設置していない場合、または作業場所に通信・警報装置を設置していない、もしくは正常に使用可能な状態を維持していない場合。
(十一)専用貯蔵場所において専任の管理者を置いていない。劇毒化学品や重大危険源となる物質に対し「二人体制での受領・発送、二人体制での保管」を実施していない、または記録の保存期間が3年未満の場合。
(十二)危険化学品の入出庫時の照合・登録制度を確立していない場合。
(十三)危険化学品の専用保管場所に明確な表示標識を設置していない場合。
(十四)研究開発機関が、ラボスケール、パイロットスケール、工業化試験を経ていない新プロセス・新技術を直接工業化生産に用いた。または、技術譲渡の際に安全性評価報告書や関連資料を提供しなかった場合。
(十五)危険化学品を使用する事業者が、作業場所で使用するSDSおよび化学品安全ラベルを従事者に提供していない場合、または正しい使用方法や緊急時に講ずべき措置を従事者に告知していない場合。
(十六)危険化学品の製造企業または販売企業が、SDSまたは化学品安全ラベルのない危険化学品を取り扱っている場合、またはSDSや化学品安全ラベルを無断で改ざんしている場合。
(十七))危険化学品の製造企業または輸入企業が、危険化学品登録を行っていない場合、または製造・輸入した危険化学品に新たな危険特性が判明した、もしくはその他の登録内容に変更が生じたにもかかわらず、登録内容変更手続きを行っていない場合。
施行に向け、企業は速やかに自己点検を行い、上記の義務違反が存在しないかを確認したうえで、2026年5月1日までに必要な是正および更新対応を完了することが求められます!
「中華人民共和国危険化学品安全法」の全文は、chemradarよりダウンロードいただけます:https://hgt.cirs-group.com/lawinfo/detail/f8id8ogsxam8
