CIRS 工業化学品事業部
2026年8月4日、中国生態環境部は『中国既存化学物質名録』(以下『名録』または「IECSC」)の追加および変更に関する公告(2026年 第40号)を公表し、要件を満 たす486個の化学物質を『名録』へ追加収載いたしました。現在、『新規化学物質環境管理登記弁法』(生態環境部第12号令、以下「第12号令」)の改定作業が進められる中、今回これほど大規模な化学物質が『名録』へ追加収載されたことは実務上、見逃せない大きな動きと言えます。
公告の「添付資料1」に含まれる4つの化学物質は、いずれも新規化学物質環境管理登記制度の実施前(2003年10月15日以前)に中国国内で製造、販売、加工使用、または輸入されていた化学物質です。本公告に基づき、これら4物質は2025年8月11日に公示された「2025年第2回(通算第14回)『中国既存化学物質名録』追加予定物質」の通りであり、物質識別情報はすべて公開され、新規用途環境管理の範囲も設定されていません。
公告の「添付資料2」に含まれる482の化学物質は、すべて『新規化学物質環境管理弁法』(旧環境保護部第7号令、以下「第7号令」)の規定に基づき通常申告登記証を取得した新規化学物質であり、『新規化学物質環境管理登記弁法』(第12号令)の施行日から5年が経過したことで、主務部門により自発的に『名録』へ収載されました。これにより、第7号令に基づき通常申告登記証を取得した新規化学物質は、すべて『名録』への収載が完了したことになります。
特に企業が注意すべき点として、今回追加された第7号令に基づく通常申告物質482種のうち、約40%の物質に対して「新規用途環境管理の範囲」が設定されている点が挙げられます。企業がこれらの物質を許可された用途以外の工業用途に使用する場合、計画している用途に基づいて改めて新規化学物質登記証を取得する必要があります。
今回の『名録』追加内容に対する理解を深め、今後の事業活動への影響把握や対応戦略の策定に役立てていただくため、CIRSグループでは、今回追加された第7号令に基づく482物質の詳細な分析を実施いたしました。
一、482物質の全体統計分析
項目 | 物質数 | 割合 |
一、物質総数 | 482 | — |
機密保持(類名・一連番号のみ表示) | 57 | 11.8% |
非機密(物質識別情報を公開) | 425 | 88.2% |
二、CAS番号の付与状況 | — | — |
CAS番号あり | 371 | 77% |
CAS番号なし | 111 | 23% |
うち機密保持(一連番号のみ) | 57 | 11.8% |
うち非機密(一連番号のみ) | 54 | 11.2% |
三、新規用途環境管理の範囲 | — | — |
新用途管理を実施しない(空欄) | 290 | 60.2% |
すべての工業用途 | 63 | 13.1% |
許可用途以外のその他工業用途 | 129 | 26.7% |
四、物質の分類 | — | — |
有機物 | 449 | 93.2% |
無機物 | 18 | 3.7% |
ポリマー | 15 | 3.1% |
統計データによると、今回追加された化学物質の88.2%で識別情報が公開されており、CAS番号付きの物質も77%にのぼるなど、『名録』の透明性は非常に高く保たれています。これにより、自社で製造・輸入する化学物質が『名録』に収載済みであるかを判断しやすくなりました。機密保持対象の物質は有機物(57種中49種)とポリマー(8種)に集中しています。また、CAS番号のない111物質のうち54物質は非機密対象であり、これらは名称が公開されているものの、複雑な反応生成物やポリマー、天然変性誘導体など、現行のCAS命名体系では一義的に特定しにくい性質上「CAS番号なし」として登録されています。なお、機密保持対象の57物質については、すべてCAS番号の代わりに「一連番号」で識別されます。
物質分類では、有機物が449種(全体の93.2%)と大半を占め、無機物が18種(3.7%)、ポリマーが15種(3.1%)となっています。115種のポリマーは、アクリル酸エステル・酢酸ビニル共重合体水解物ナトリウム塩や、ジメチルアミノプロピルメチルシロキサン・硫セレン化カドミウム亜鉛反応生成物など、機能性高分子や特殊材料分野に集中しています。一方、18種の無機物は多元金属酸化物やフッ化物、錯体(フルオロ亜鉛酸カリウム、五ホウ酸ナトリウム、(SP-4-1)-テトラクロロパラジウム(II)酸塩酸溶液、アルミニウム・コバルト・リチウム・ニッケル酸化物など)が中心であり、先端電子材料や触媒、電池のプリカーサーといったハイテク産業向けの用途展開を反映しています。
実務上の重要点として、「新用途管理の範囲」が空欄となっている290物質については、『名録』収載に伴い既存化学物質として扱われるため、企業は用途制限なく任意の工業用途に使用可能です。しかし、「許可用途以外のその他工業用途」と指定されている物質については、自社の用途が許可用途と一致している場合に限り、新規化学物質登記の再取得が免除されます。一致しない場合は、事前に計画用途での登記証を取得しなければ製造・輸入を開始できません。最も重要なのは、63物質において新規用途環境管理の範囲が「すべての工業用途」と設定されていることです。これは、いかなる企業であっても、当該物質を任意の工業用途で製造・輸入・使用する際には、あらかじめ新規化学物質登記を行い、登記証を取得することが義務付けられることを示しています。对の「すべての工業用途」への指定は、主管部門が『名録』追加にあたり、提出済みの登記資料や危害性データを再評価した結果、該当物質を「高危険有害性物質」と判定したためと推測されます。第12号令の規定に基づき、『名録』に収載された高危険有害性物質については、登記証保持者が用途を変更する場合や、保持者以外の第三者が工業用途で使用場合には、製造・輸入・加工使用の開始前に新規用途環境管理登記の申請手続きを完了させる必要があります。
二、全体概要と本改定におけるコンプライアンスへの影響
図 482個の新規化学物質における主要コンプライアンス特徴の分布
上図より、今回追加された482物質の主要なコンプライアンス特徴が一目で把握できます。全482物質が「通常登記取得済み → IECSC(名録)」への変更を完了したものの、そのうち約4分の1がCAS番号なし、約4割で新規用途環境管理が適用、約12%が機密保持の対象となっています。
新規化学物質を製造・輸入・加工使用する企業の実務において、今回の『名録』追加公告で押さえるべきポイントは以下の通りです:
(1)本公告の印発(公表)日をもって、対象物質の中国におけるステータスは「新規化学物質」から「中国既存化学物質」へと正式に切り替わりました。これにより、該当物質について企業が今後新たに「新規化学物質登記」のためにコストやリソースをかかる必要はなくなります。ただし、新用途制限が設定されている物質については、許可用途の範囲を事前に確認することが不可欠です。規定に従った新用途登記を行わずに許可用途外で使用・手配した場合は、引き続き新規化学物質管理法規への違反行為となります。
(2)機密保持物質における自主照会の必要性:『名録』における機密保持とは、あくまで公開形式(類名や一連番号での表示)が制限されているのみであり、所管部門は完全な物質識別情報を把握しています。自社の化学物質が『名録』に収載されているか判断できない企業は、新規調査を依頼し、新規化学物質に該当するかどうかを確認する必要があります。
三、企業への実務対応アドバイス
今回の『名録』追加、現行の第12号令による規制要件、ならびに現在進行中である『弁法』の改定作業を踏まえ、企業におかれましては以下の2点に注力することを推奨いたします:
一、自社原料・製品リストの即時照合:今回『名録』に追加された化学物質リストと自社の原料・製品リストを直ちに照合し、該当する482物質(特に新規用途環境管理が適用される192物質)を特定してください。その上で「用途コンプライアンス管理リスト」を作成し、調達・EHS・コンプライアンスの3部門連携のもと、制限範囲外での使用がないことを確認・確保してください。
二、『名録』への収載は、必ずしもすべての法的義務が免除されることを意味しません。『中国既存化学物質名録』において「新規用途環境管理」の対象と指定されている化学物質について、認められた許可用途以外の工業用途で使用する場合は、新規化学物質と同等の環境管理手続きに従う必要があります。
四、おわりに
『生態環境法典』の施行を控え、今後の新規化学物質に関連する違反への処罰基準は同法典と厳格に統一されます。登記証未取得での製造・輸入・使用や、登記証の要件に従わない事業活動に対しては罰金刑が大幅に引き上げられ、最高200万人民元(約4,000万円超)の罰金が科されるほか、是正勧告に従わない場合の段階的処罰はさらに重くなり、違反の程度に応じて操業制限や操業停止、さらには事業所閉鎖・廃業命令に直結するリスクがあります。
新規化学物質の登記管理に関する法規制制度の改定も今後急速に進むと予想されるため、関連企業におかれましては今後の動向を最優先でフォローすることを推奨いたします。CIRSグループでは、今後も関連法規の改定動向を常に追跡し、お客様へ専門的な法解釈および中国新規化学物質コンプライアンスに関する最適なソリューションを提供してまいります。
最新の法規制解説記事につきましては、CIRSグループ公式サイトおよび「化規通/ Chemradar)」にて随時発信しております。また、弊社がこれから主催する「新規化学物質法規制改定に関する専門セミナー」への皆様のご参加を心よりお待ちしております。
